カフェオレとドーナツ《流三》

 カフェオレとドーナツは、最高の組み合わせだと思う。

 世の中には時として、組み合わせると1+1以上になるものがある。
 カフェオレとドーナツは、まさしくそれだ。
 焼きたてのアップルパイとバニラアイス、真昼間とビール、ガル・ガドットとクリス・パイン。
 ピザと映画、ピザとワイン、ピザとスポーツ観戦。こう考えると、ピザはかなり優秀だ。

 三井が大方の悲観的な予想を覆して大学の推薦を勝ち取り、学校中がちょっとした騒ぎになってからもうすぐ一年が経とうとしていた。昨春の卒業式では終始不機嫌そうにしていた流川とも、なんやかんやでうまくやっている。と、思う。そもそも流川のあり余る熱意に押し切られて始まった関係だったから、向こうの熱が冷めてしまえば自然と終わっていくだろう、なんて軽く考えていたのが甘かった。お前、バスケと睡眠しか興味なかったんじゃねーの、と疑わずにはいられないくらい流川の熱は強烈で、普段はそのスペックをバスケにほぼ全振りしている男から向けられるそれに、三井が絆されるのもただただ時間の問題であった。
 しかし、スポーツ推薦で入学した身といえど学生の本分は学業であることに変わりはなく、試験やレポートは皆平等にやってくる。単位を取るためには、トップを狙わなくともクリアはしなければならない。そのために今日は一人暮らしをしているアパートの最寄駅近くのドーナツショップにパソコンと参考書籍を持ち込み、課題が終わるまでは絶対に帰らないと決めた。思考を働かせるためには糖分が不可欠だし、加えてこのドーナツショップはコーヒーやカフェオレがおかわり自由なので、使い勝手がいい。試験期間中は部活も休みだし、籠城戦の構えだ。

 そういえば、カフェオレとカフェラテって何が違うんだっけ。

 以前、二人で緑色のロゴの超有名コーヒーショップへ行った際、あまりのメニューの多さとその呪文のような名前に嫌気がさしたのか「面倒臭いからドリップコーヒーでいいっす」と言っていた流川を思い出す。自分は迷わず季節限定のフラペチーノやラテを選ぶタイプなので、ああいった店で普通のコーヒーを頼める流川を密かに尊敬している。そして並びながら「そもそも、ラテとかオレとかモカとかよくわからん」と言う流川に、スマホでその違いを調べて教えてやったのだが、肝心の内容はすっかり忘れてしまった。
 きっと今頃、同じく試験期間に入った流川も机に向かっているはずだ。1年の夏に成績不振によるIH出場危機に陥ったことがさすがに堪えたのか、以来、彩子達の助けも借りながらなんとか赤点4つ以上という醜態を晒すことはギリギリ回避しているらしい。
 先ほど届いた「先輩が足りない」という流川からのメールを見ながら、あのデカい身体で数学や物理に頭を悩ませているであろう姿を想像するとなんだか自然と笑えてくる。宮城たち3年生が年末のウィンターカップで引退し、新体制となった湘北バスケ部の活動に加えてU-18合宿やら遠征やらで多忙を極める流川と大学生の自分。はじめからわかっていたことではあるが、なかなか会えないのがもどかしい。「足りていない」のは、決して流川だけではないのである。

 ひとまずこのレポートと試験地獄を乗り切れば、来週末は久々の完全オフだ。帰宅したら早速、流川にメールを返すことにする。「お前が足りない」なんて送ったら、あいつはどんな顔をするだろう。何かを頑張るためには、ご褒美と甘味が必要だ。
 休日の朝と隣に眠る愛する人。流川と俺も、実は最高の組み合わせなのかもしれない。そんなことを考えて一人でニヤケている自分も大概だな、と思いつつ、少しぬるくなったカフェオレを口にして三井はもう一度パソコンに指を走らせた。

<fin.>