「健やかなる時も、病める時も、死が二人を分かつまで……」
やはりというかなんというか、周囲の予想通り、当時の湘北バスケ部で最初に結婚したのは木暮だった。俺たちも大人になったもんだなぁと少しの感慨に浸りながら、こんな時も隣で眠たそうにしている流川をこっそりと肘で小突く。
新緑が美しい初夏のガーデンウェディング。
天気さえも新郎新婦を祝福しているかのような、これ以上ないくらいの快晴で、あちこちから「おめでとう」の声が聞こえてくる。木暮は本当にいい奴だから天気も味方してくれるんだな、なんて思いながらたくさんの笑顔の真ん中で相変わらず照れ臭そうに笑う新郎を見つめた。
木暮やバスケ部の連中と一通り挨拶やら現状報告やらをし終えたあとは、人目のつかない木陰のベンチに流川と二人で腰を下ろした。日差しがないだけで、随分と涼しい。会場の緑と真っ白の花がなんだかやけに遠く感じる。
「俺さぁ……」
そして、ぽつりと呟いた。
「死が二人を分かつまで、ってやつ。あんま好きじゃねーんだよな」
「あぁ、さっきの」
お前本当にちゃんと神父の話聞いてたのかよ? とさっきの眠そうな流川を思い出しながら、手元のワイングラスをくるくると回す。
「死んだらそれまでかーって思うと、なんか虚しくね?」
「……先輩は」
そう言った流川は俺のネクタイをグイッと掴んだかと思うと、挑むような視線をこちらへ向けた。グラスの中のワインが大きく揺れる。
「死んだくらいで、俺から離れられるとでも?」
その視線から、目が逸らせない。というより、逸らしたら負ける気がする。
「……はっ、こえーな」
なんとかそれだけ絞り出すと、ふぅと一息ついてニヤリと流川を見返した。
「お前は天国でも地獄でもついてきそうだな。俺と最期まで一緒にいる覚悟、あんのかよ?」
「トーゼン」
そして素早くワインを口の中に含むと、迷いなくそう言い切った流川の唇を掠め取った。
「ワインの味がする」
「誓いのキスだろ」
ふざけてそう言うと、お返しとばかりに今度は流川が唇を奪ってきた。しかしそれは、誓いのキスというにはあまりにも。
「ばっか、誓いのキスってこんなに濃いやつじゃねーだろ」
「きっと今日はカミサマも許してくれる」
お前神様とか信じるタチじゃねーだろ、と言い返しながらも、ここならもしかして神様も見ていてくれるんじゃないか、なんて思ってしまったのも事実で。
とてもじゃないが、俺に愛と平和は歌えそうもない。それでも今夜、こいつの耳元で “I love you.” くらいは言ってやってもいいかな、なんてふと思ったのは、やっぱり幸せそうな二人を見たからなのかもしれない。これも結婚式マジックっていうやつなのだろうか。それでも俺はきっと、今日のキスとワインの味を一生忘れない。
<fin.>