今まで、どれだけたくさんのものを手放してきたのだろう。
例えば、子どもの頃に大切にしていた宝箱。海で拾った貝とか、きれいな石とか、駄菓子についていたカードとか。一見ガラクタに見えても、自分にとっては大切な大切な宝物たちをクッキーの空き缶に入れて、大人に見つからないように、こっそりと自分の部屋の押し入れにしまっていた。そういえばあれ、どこへやったんだっけ。引っ越しのどさくさに紛れて、捨ててしまったのだろうか、今となってはもう思い出せない。
沖縄の平屋から神奈川の団地に移り住んだとき。そこから異国の地、アメリカで寮生活を始めたとき。家のサイズが小さくなるにつれ、自然と荷物は少なくなり、自分にとって「本当に大切なもの」だけが残っていった。それに、選択肢は少ない方が、いざという時に迷わなくて済む。
そして先日、宮城はそんな数少ない荷物の中でも、特に大切にしていたものを手放した。
「俺、やっぱこっちの空気の方が合ってるような気がするんですよね」
三井には、電話でそれだけ伝えた。別れよう、とも待っててほしい、とも言わなかった。当初は大学卒業とともに日本へ戻る予定だった約束を勝手に反故にしたのは自分なのだから、考えどころも決定権も三井の方にあると思った。
それなのに。
「そっか」
三井の返事は、たったそれだけだった。別れよう、とも待ってる、とも言われなかった。何となく互いに無言になったので、「それじゃ、元気で」と言って電話を切った。それから一度も連絡を取っていない。きっと、終わったのだと思う。終わりはあまりにも、あっけなかった。先に手を離したのは自分のはずなのに、今もまだその手の温もりを忘れられずにいる。
ーーなに、アンタ、諦めが悪いんじゃなかったの?
バスケ部襲撃なんていう前代未聞の大事件を起こした張本人は、暴力沙汰を色濃く残した顔の痣とサラサラのロン毛をバッサリ切って、体育館に戻ってきた。「俺は諦めが悪いんだよ」と言い放ち、自分の隣で深く頭を下げたその姿を、宮城は一生忘れないと思う。「どのツラ下げて」とか「何を今さら」とか、言いたいことはたくさんあったような気がしたけれど、彼のやけに綺麗なつむじを横から眺めていたら、何だかそういうのが全部どうでもよくなった。それに、三井がバスケをどれだけ愛しているかなんて、ずっとずっと前から知っているのだ。
だから、つまり、そういうことなんだろう。
誰よりプライドの高い男が、世界一かっこ悪い己の姿を晒してまで、諦めきれなかったバスケットボール。そんな彼を知っているからこそ、心のどこかで三井が「待ってる」と言ってくれるのを期待していた。俺のことは、簡単に諦めちゃうんですねーーなんて。バスケと自分を同列に扱うこと自体、きっとおこがましい。
いつの間にか、手の震えは止まっていた。
ーーあぁそうか、怖かったんだ。
三井に「別れよう」とか「俺たちもう終わりにしよう」とか、そういう直接的な言葉を告げられるのが怖かった。自分の手のひらをグーパーと開けたり閉じたりしながら、最後に話したのが電話で良かったな、と思う。直接顔を見て話したら、きっと気づかれてしまう。未練とか、まだ彼を好きな気持ちとか。それらをぐっと飲み込んで、電話越しでは精一杯「平気なふり」ができていただろうか。
「さよなら、三井サン」
誰に聞かせるわけでもなく、ひとりつぶやいた。本当に自分は、大切な人との別れ際が下手くそだと思う。子どもの頃からずっとそうだ。
ーーいつまでも学ばねぇな、俺も。
またひとつ、大切なものを手放した。でも、大丈夫。バスケットボールとシューズさえあれば、きっと自分はこれから先もずっとやっていける。
その日の夜、夢を見た。
中1の自分と中2の三井が公園でワンオンをしているあの日の夢。素直さなんてものは全部沖縄に置いてきてしまったから、当時のスカした態度は本当に酷かったはずなのに、夢の中では笑顔で三井と対峙している。あの時の態度はさすがになかったよな、と後になって散々後悔した。ひとりぼっちだった自分に、初めて声をかけてくれたひと。クソみたいな毎日を過ごしていたあの頃、拠り所だったバスケをただ一人、大切に扱ってくれたひと。自分が知る中で、誰よりも美しいスリーポイントを打つひと。
たぶん、あれが、初恋だった。
*
アメリカのカレッジバスケは、11月からプレシーズンが始まる。それに向け、10月から各校の練習が始まるのだが、10月に入ると、キャンパスや学生寮の中も自然とハロウィン仕様の装飾が増えてくる。留学1年目は、本場のハロウィンだー! とか言って、三井にテレビ電話したんだっけ。懐かしい、ほんの少しの感慨とともにチクリと胸が痛んだけれど、それには気づかないフリをした。大丈夫、ちゃんと思い出にできている。
「リョータ、待ち合わせの人が来てるよ」
突然、上から降ってきた声でふと我に返った。
チームのマネージャーにそう呼ばれると、宮城はぼんやり食べていたサンドイッチを口の中に突っ込み、急いで席を立った。
来客は、すでにロビーで待っていた。つい最近、米国支社に配属された日本人記者だと聞いている。なんでも、NCAAのシーズン開幕に合わせ、宮城をはじめとして沢北、流川といったアメリカにバスケ留学している学生たちの特集を組むことになったので、ぜひ取材をさせてほしいとのことだった。
白シャツに黒のテーパードパンツを合わせている男性だ。シンプルな装いだが、彼のスタイルの良さも相まって遠目から見てもかなり目立つ。
お待たせしました、と言いながら、既のところで宮城の足が止まった。
相手の男性が顔を上げる。ーー記憶の中のあの人とうまく一致しない。だって、どうして、なんでこんなところに。あまりの急な事態を飲み込めず、未だ硬直している宮城をよそに、目の前のその人はにっこりと笑って名刺を差し出した。
「どうも、お時間とっていただいてありがとうございます。ーー社の三井寿です」
「お忙しいときにすみません、宮城選手。それでは早速、来月から始まるリーグ戦に向けて抱負や目標がありましたら、お聞かせ頂けますか?」
にこやかにマイクを向け、そんなことを続ける三井を宮城は思わず手で制した。
「ちょっと待って、え? なんで? なんでアンタがここにいるの?」
「宮城選手にとっては、大学最後のシーズンとなるわけですが……」
「いや、だからちょっと待ってって」
ねじ込むような宮城の口調に、思わず三井が苦笑する。
「なんですか。口悪いですよ。だから恋人にも愛想尽かされるんじゃないですか」
「ハァ!? 別に愛想尽かされてなんか……てか人の質問に答えろよ!」
「うるせーな、俺は諦めが悪いんだよ」
その言葉に、宮城が弾かれたように顔を上げた。目の前にあるのは、高校時代となんら変わらない、妙に白い差し歯といつまでも消えない顎傷が目立つ笑顔で。両方とも、高校時代に自分がつけたモノなのだと思うとたまらない気持ちになる。
「つーかお前、演技が下手くそすぎんだよ。あんな声であんな電話寄越しやがって。どう考えたって未練タラタラじゃねーか」
「いや、だって……俺は沢北や流川みたいに引く手あまたで有名なプレイヤーじゃねえし、これからどうなるかも……」
「うっせぇ、2回も言わせんな」
言い訳じみた言葉を並べる宮城を遮るように、勝ち誇った口調で三井は笑った。
「俺は諦めが悪いんだよ」
聞くや否や、宮城はその体を力いっぱい抱き締め、ぎゅうぎゅうと目の前の肩口に目一杯顔を擦り寄せた。そのまま、いつか見惚れた横顔に唇を寄せる。
「……ねぇ三井サン。俺、アンタのこと手放せそうにないんだけど、いいの?」
「あ? 別に手放されねーし。つーか感謝しろよ、お前のためにわざわざこっちに支社があるトコに絞って就活したんだからな」
当たり前だろ、というような三井の口調に、それまで抱えていたはずのグルグルした不安とか、そういうのが全部どうでもよくなって、結局抱きあったまま、久しぶりにふたりでくだらない話をたくさんした。三井が自分のことを諦めないでいてくれた、ここまで来てくれた、一緒にいる理由なんかそれだけで十分だった。
*
「リョータ、知り合い?」
「え? 昔のスクールメイト?」
どれだけそうしていたのだろう。
いつの間にかふたりの周りにわらわらと集まってきたチームメイト達に、三井はにこやかに挨拶をすると「宮城選手について伺ってもいいですか?」とごく自然にインタビューを始めた。あぁ、そういえばこういう人だった。初対面の相手の心をこんなにもすぐに鷲掴みにするスキル。どんなコミュニティに入っても、彼を中心に人が集まってくるのはおそらく天性だ。
そんなことを考えながら少し離れて様子を見ていると、インタビューの最後に三井が「今後もうちの宮城がお世話になります」と含みのある笑顔を浮かべた。その瞬間、周囲がざわりと色めきだつ。本人的には牽制しているつもりなのかもしれないが、そんなものは全く逆効果なのがわかっていない。おそらく早急な決断と牽制を迫られるのは、宮城の方だろう。
勘弁してよ、と思いながらも、こうやって三井に振り回されるのも嫌いじゃない自分に気づく。会えなかった今までの日々に比べれば、ずっとずっと幸せだ。
ーーと、この時は本当に、そう思っていた。
*
「……ん、っん、」
惹きつけられるような自然な動きで、唇を重ねた。久しぶりに味わう三井の唇は柔らかくて、相変わらず気持ちが良かった。
「……は、ぁ、」
別れたと思っていた恋人と久しぶりに再会して、しかもそれが思いもよらぬサプライズだったとしたら、練習後普通にご飯を食べて、お行儀よくサヨウナラ、なんてできるだろうか。そんなことができるのは、神様か聖人しかいないだろうし、あいにく自分はそのどちらでもなかった。そしてそれは、三井も同じだ。
転がるように部屋に着いた途端、我慢できずにそのままベッドに三井を押し倒した。
「ーーなんだよ、お前、大胆じゃん」
いつのまにか、アメリカナイズされちゃったわけ? なんて、此の期に及んでまで憎まれ口を叩くその唇を「黙って」というかわりにもう一度、強引に塞いだ。ん、っという鼻にかかったような甘ったるい声を聞くだけで、理性が吹っ飛びそうになる。はぁ、と息を吐くと同時に口を開けば三井の舌がすかさず絡みつき、彼の中へ宮城を誘い込んだ。久しぶりに会えて我慢できないのは、きっとお互い様だ。むせ返るような三井の匂いと久しぶりのキスの感覚に酔ってしまいそうで、宮城の頭の中にはどんどん濃い霧がかかっていく。
「もういいから、アンタは黙って喘いでて」
腹の底から出した低い声に、三井はびくりと肩を震わせた。
「……っ」
互いの体温がどんどん高くなり、熱くなった手のひらを三井の肌に滑らせる。プツリ、とひとつずつシャツのボタンを外すと露わになった肌は、記憶の中にあるそのままの白さで、それになぜか安堵した。唇を重ねる、というより噛み付く、というほうが近いかもしれない。舌で強引に上唇と下唇の房をこじ開けて、中にある三井の舌を捉える。
「んっ……、」
鼻から抜けていくような小さな声に、宮城の下半身がずくんと重く疼いた。血液がじわじわと下腹に集中していくのがわかる。
「……三井サン、口、もっと開けて」
「あ、っ……」
唇と唇が触れるか触れないかの距離でそう囁くと、三井はゆっくり口を開いた。それを塞いで、思わず呼吸すらも奪ってしまいたくなる。三井の唇は宮城と同じくらい湿っていて、じんわりと熱を持っていた。
「ねぇ、俺の指、噛まないでよ?」
言いながら、左手の人差し指と中指を揃えて三井の口に差し込むと、2本の指で口の中をゆっくり愛撫する。舌を挟んで、擦って、覚えている限りの三井の弱い所を探した。舌の裏や上顎をゆっくりと指でなぞってやると、三井はーーはぁ、と吐息だけで喘いだ。相変わらず快感に従順なその姿を見て、なんだかひどく安心した。あぁ、俺の知っている三井サンだな、と思う。
そのまま一気にベルトを外して、下半身も露わにした。どうしたって興奮してしまうようなシチュエーションに、自身を落ち着かせるよう大きく息を一つ吐いたあと、三井の白い太腿にそっと手を伸ばした。咥内を弄っていた指をゆっくり引き抜くと、快感に堪えきれない三井の唾液がとろりと後を引く。
「……っ、宮城」
「もう勃ってんじゃん。なに、三井サン、興奮してんの?」
太腿を撫でる手をそのまま足の付け根まで這わせて、際どい所を指先で静かになぞると、ゆるく勃ち上がった三井のそれを唾液で濡れた指先でたどった。
「…っちが、」
そのまま、根元からゆっくり抜き上げる。三井は逃げるように腰を浮かせたが、片手で押さえつけて動けないようにした。
「逃げんなよ」
少し汗ばんだ三井の肌を、枕元の仄かなオレンジ色の照明が艶めかしく照らし出す。乾きかけていた自分の唇を、無意識にペロリと舌で舐めた。
指で作った輪っかをゆっくりと動かしながら、もう一度三井と唇を重ねる。深く口付けて舌先に触れ、唇を吸って離れる。間髪入れず重ねて、舌を絡めた。そのままわざとーーチュ、と音を立てて吸い上げると、三井が宮城の首の後ろにまわした腕に力を込めた。
「……ん、……んんっ、ふ……ぅ」
その姿はまるで、三井が自分に縋っているような気がして、ひどく優越感が湧いた。いつのまにかそれは形を変え、快感となって背筋をぞくぞくと昇っていく。
片手で弄っていた三井の熱はすっかりとろとろと先走りを垂らし、張り詰めていた。くるりとその先端を撫でてやる。
「んん、んぅ、…っう、…ふ、…ぁ」
ふと顔を上げると、潤んで力の入っていない三井の瞳がこちらを見つめていた。
視界に入るものすべてが扇情的だった。悩ましげに寄せられた眉も、汗に濡れる肌も、その瞳も。
「三井さん」
耳元でわざと息を吹きかけるように名前を呼び、彼の耳たぶを舌で舐めると、三井はびくりと身を震わせた。そのまま首や肩に噛み付いて、痕をいくつも残す。この人は俺のだ、とでもいうかのようにきつく吸った赤い痕。まるで、小さな子どもみたいな独占欲に反吐が出そうになる。
「ーーねぇ、俺のチームメイトが三井さんのことを色っぽい目で見てたの、気づいてた?」
宮城の手によってすっかり濡れてしまったそこに目をやると、ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てていた。
「あんな顔、俺以外の前でしちゃだめでしょ」
言いながら、手を動かすスピードを意図的に上げると、三井の腹筋が細かく震え、はっ、はっ、と不規則になる呼吸に、絶頂が近いのを悟った。三井の腹は昔よりもだいぶ薄くなってしまったけれど、相変わらず綺麗だなと思う。そして、この美しい身体を知っているのは、自分だけでいい。
「ぁ、あ、ぁ……っ、ん、ごめ……も、出る、……っから、離……ッ」
離して欲しい、とここに来て抵抗を強めるその脚をいとも簡単に取り押さえる。現役アスリートの自分と三井のそれでは、体躯が違うのに。三井はそれでも、いやいやと頭を振って快感に耐えようとしていた。往生際の悪さは、まるで変わらない。
それを見て、深く口付けをした。動かす手は止めないままもう一度。
縋るように絡んできた舌に応えながら、とどめだとばかりに先端をえぐるように刺激した。
「ん、あ、ーーーーーッッ」
すると、三井の背が大きくしなり、そのままびくびくと脚も跳ねて、片手の中ではじけた。絞り出すように根元からゆっくり2度、3度と扱き上げる。断続的に白濁を吐き出しながら、三井は喘ぎ声を漏らした。
そのまま何回か労わるように優しくキスをしてやると、呼吸が戻ってきた三井がニヤリと強気な笑みを浮かべた。
「宮城、やらしー顔してるな」
「いっとっけど、アンタだって相当だからね」
そう返すと、三井が吐息だけでふっと笑った。それだけで宮城の身体の奥をぞくりとさせるのだから、この男は本当にずるい。
「宮城、俺、こーゆーことすんの久しぶりなんだから……わかってるよな?」
「え、そうなの?」
予想外から降ってきた三井の言葉に、思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
「ーーは? 当たり前だろ、ずっとお前いなかったんだ、」
し、という言葉を待たずに、宮城は思い切りその唇を塞いだ。やっぱりこの人はずるい。だって、そんなの聞いたら。
「余裕がないのは、お互い様?」
「そういうこと。だからーー」
言いながら、三井がすっと左足を伸ばし、それをグッと宮城の股間に押し付けた。
「お前の好きなように抱けよ、ーー宮城」
「ーーほんっっと、煽り上手なのは昔から変わんないよね」
きっと、何も隠せていない。平気なふりなんか、できそうもない。雄丸出しの、ギラギラした表情になっているに違いない。そして、先ほど三井にぶつけてしまった理不尽な独占欲に対する自己嫌悪なんて、一瞬でどこかに吹き飛んでしまった。
「その言葉、後悔しないでよ」
「おまえこそ」
そう言うや否や、噛み付くような、キスをした。
「……は、……ぅ」
ぬぷ、ぬち、という何かが潰れるような音が、三井の下肢から聞こえてくる。
ぎちぎち、という表現がぴったりなくらい、三井のナカは宮城でいっぱいだ。熱い。熱くてたまらない。でも、それ以上に。
「ーーなぁ、みやぎ、」
快感でぼやけた頭を必死に働かせて、宮城の方へ手を伸ばした。そのまま、汗でしっとりと濡れてゆるくウェーブのかかった髪をゆっくりと撫でる。
「……すき、だ、すきだ、おまえが」
すると、目の前の男は一瞬、信じられない、というような顔をした。そしてそのまま、嬉しそうに眉を歪める。この表情が、すきだった。ずっと。
三井の左膝に軽くひとつキスを落とすと、掠れた声で宮城が呟いた。きっともう、お互いに余裕なんて1ミリもない。
「ーーっ、三井サン、動いていい?」
「だから、お前の好きにしていいってーー」
言ってんだろ、とは言わせてもらえなかった。
「あッ、あ、……みや、」
ずるりとソレを抜かれたと思ったら、次の瞬間には奥深くまで突かれてしまう。ひどい快感が三井を襲い、浅い所で抜き挿しを繰り返したかと思えば、ずんと奥の方まで突き抜かれる。
「……、っ、三井さ、」
「ん、んッ、ぅ……、あっ、」
突き上げられる速度が増した。回した腕から宮城の背中に思わず爪を立て、目の前の男から与えられる快感を必死に耐える。記憶の中よりもずっと、たくましくなった。
「みやぎ、おれ、……ァ、も、ダメ、」
「ん、出、…っ」
やばい、気持ちいい。やっと会えた。しあわせだ。気持ちがいい。
「んぅ、ンっ、んん――――……ッ!」
「く、…ッ、ふ」
一緒に昇って昇って昇って、そうやって辿り着いた絶頂の瞬間は、目の前の景色が霞んで見えた。同時に、宮城の熱が自分のナカで弾けたのを感じる。
よかった、自分の選択は間違ってなかった。
たとえどれだけーー日本とアメリカで離れていたとしても、どうしたって愛してしまうのだから。この運命には抗いようがない。
だったらもう、自分の一生を使って、宮城のそばにいてやりたいと思うのだ。
*
「ーーなんかお前、ねちっこくなった?」
「……褒め言葉として受け取っておきます」
宮城は下着一枚でベッドに腰掛け、ブランケットにくるまる三井を見下ろしながら、水が入ったペッドボトルを手渡した。
「なぁ、宮城」
それを飲みながら、三井がぽつりと呟く。
「俺は、じーさんになってもお前と一緒にいたいって思ってるんだけど、お前はどうなの?」
珍しく不安げにこちらを見つめるその瞳が信じられずに、宮城は思わずパチクリと瞬きを2回した後、多分、この機会を逃したら2度と伝えられないだろうなと思いながら答えた。
「いや、それは俺もそう思ってますけど」
「そっか」
安心したように、そう笑う三井はやっぱり格好良くて、可愛くて、愛おしくて。
「それならこれからも、飽きるくらいそばにいて、一緒に笑おうぜ」
何それ、プロポーズみたいじゃん。どうせアンタは気づいていないだろうけど。
きっと三井はこれから先もこうやって、何の気なしに彼の周りにいる人たちを救っていくのかもしれない。
「俺が諦めの悪い男でよかったな」
「それも、本当にそう思います」
初めて出会ったあの日を思い出しながら、あぁ、俺はこの人がどうしようもないくらい好きなんだな、と宮城も笑って頷いた。
自分の部屋で、三井とふたり。
なんでこの人を手放せると思ったのだろう。そんなことは無理だと初めからわかっていたのに。
引越しを繰り返す中で、色々なものを手放してきた。その中で、一度手放そうとして、やっぱりできなかったものは、バスケと三井の二つだけ。子どもの頃に大切にしていた宝箱はもうどこかにいってしまったけれど、今の自分にはもう必要のないものだ。
バスケットボールとシューズと三井寿。これさえあれば、きっとこれから先、どこへ行ったとしても自分はやっていける。
自分の隣で幸せそうにケラケラと笑う三井を見ていたら、そんな気がした。
<fin.>